ここが見所

梅切らぬバカ(2021年/和島香太郎監督)

望月直秀

実行委員会 企画理事
ディスクコレクター

ことわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」は樹木の剪定にはその特性に沿って対処する必要があるという戒め。転じて、人との関わりにおいても相手を理解して異なる個性を尊重せよと云う意味も成す。

自閉症を抱える息子(愛称・忠さん)とその母(珠子)の暮らしを軸に描く本作。語り口は軽やかだが、当事者が抱える切実な問題も端的に伝えている。劇中、普段は気丈な母も息子が五十歳を迎え呟。「このまま共倒れになっちゃうのかね」と。やがて訪れる息子が一人で生きる未来を憂う。そして、意を決して忠さんをグループホームに入居させるが・・・。

障がいを持った人が自立し地域で生活していくことはとても困難で、家族や支援する人や近隣住民の協力や支えが必要だ。にも拘らず日本に於いては云われなき差別や偏見に満ちた眼差しが多いのも現実。

和島監督は自閉症の男性を追ったドキュメンタリーを編集した経歴を持つ。その際、その男性が地域で孤立していることが見逃せなかったという。フィクションならば住民との摩擦や各々の本音を描けるのでは、と本作の脚本に着手したとの事。それが文化庁の若手映画作家育成プロジェクトの一環でこのように作品として世に出た事は誠に悦ばしき事だ。

母・珠子を演じた加賀まりこは「いやでも明日はやってくる。この親子の日常は続く。どうか、見守って下さい」と綴っている。ぜひ映画祭会場のスクリーンでこの素敵な作品に出会って戴きたい。そして寛容な心で多様性との共生を大切な方と鑑みて欲しいと切に願う。


上映日/2023年2月25日(土)13:15〜
提供=豊橋倉庫グループ