ここが見所

MINAMATA ―ミナマタ―(2020年/アンドリュー・レヴィタス監督)

高倉嘉男

実行委員会 理事
(学)高倉学園豊橋中央高等学校 校長、
インド映画研究家

最近、若者の間で昭和や平成のグッズを愛でるレトロブームが起こっているようだ。デジタルネイティブ世代の目には、レコードやカセットテープなどのアナログなアイテムが逆に新鮮に映るのだろう。映画でも、情報のやり取りに時間が掛かった、携帯電話登場以前の時代の物語の方が起伏を持たせやすいように思える。

「MINAMATA―ミナマタ―」は、1971年の熊本県水俣市を舞台にした、米国人写真家ユージン・スミスが主人公の、実話にもとづく米映画である。この時代にデジタルカメラはなく、写真家は銀塩カメラで写真を撮り、暗室で現像して写真に命を吹き込む。撮った画像を即閲覧でき、ボタンひとつで共有できる現代から観ると趣きを感じる。日本の漁村を映す映像は、ひとつひとつのフレームが、癖のあるオールドレンズで撮った写真作品のように神々しい。

しかし、主な被写体は自然ではない。映画は、高度成長の代償として発生した公害病の一種、水俣病を扱っており、スミスのカメラは、工場排水に混ざったメチル水銀によって脳組織を破壊された水俣病患者を冷酷なまでに芸術的な陰影で写し出す。彼の写真は世界中で反響を呼び、チッソ社を相手取って裁判を起こした被害者団体の勝訴をもたらしたとされている。

日本の公害問題を米国の映画メーカーが取り上げた点には興味を引かれるが、日本人には逆に作りにくい主題だったのかもしれない。主演はジョニー・デップ。真田広之や國村隼といった日本人俳優も出演しており、日本人が観ても違和感がない米国製の日本関連映画に仕上がっている。


上映日/2023年2月5日(日)9:30〜
提供=豊橋信用金庫