ここが見所

オードリー・ヘプバーン(2020年/ヘレナ・コーン監督)

上栗陽子

実行委員会 理事
穂の国とよはし芸術劇場 事業制作リーダー

ジバンシイのドレスを脱ぎ、ラコステのポロシャツを着ることを自ら選んだ女性。

これが、私がオードリーに対して真っ先にイメージする像だ。小学生の私がテレビ越しに初めて見たオードリーは、飢餓に瀕する小さな子供を抱いている姿だったからだろう。彼女は、唯一無二のファッションアイコンとしての存在や華やかさとは反対に、容姿に多くのコンプレックスを抱えていたこと、バレエで挫折したのち米映画黄金期の大スターとして数々の名作を世に出すも主役映画で歌唱部分を吹き替えにされた過去、そして晩年は映画出演を絶って世界中の子供を救おうと邁進した、人間味溢れる多面性に幾つもその奥深さを感じさせるのだ。そして実際に映画を観て、改めてその点を掘り下げたドキュメンタリーに仕上がっていることに驚きはなかった。

本作では貴重なアーカイブ映像、リチャード・ドレイファスやピーター・ボクダノヴィッチ監督ら俳優時代の仲間、息子や孫、家族ぐるみの友人など、プライベートに迫るインタビュー映像をふんだんに盛り込み、ひとりの女性を鮮やかにスクリーンによみがえらせる。ちなみにスロータウン映画祭ではこれまでに「ローマの休日」を3回、「ティファニーで朝食を」「パリの恋人」「麗しのサブリナ」「シャレード」を上映してきたが、これらの映像も沢山観ることができ、オードリーの美しさとエキゾチックな魅力が大きなスクリーンで堪能できる。しかし、スター時代の話よりも、40代より参加したユニセフ活動に時間の半分を使い取り上げている。往年の映画ファンの方々にはオードリーの見方を大きく変えるような新鮮さがあるだろう。

アイコンとして慕われ愛された彼女は、ドレスを捨てたその像を自らが政治力を利用して人道支援に役立てようとする。戦争によって飢えに苦しみ家族が離散した過去をもつ彼女から発せられるメッセージは、死後30年絶った現在も全く色褪せない。


上映日/2023年2月4日(土)13:15〜
提供=株式会社物語コーポレーション