ここが見所

土を喰らう十二ヵ月(2022年/中江裕司監督)

河合清子

実行委員会 理事
編集者・ライター

自然の恵みをいただく暮らしの一つの理想が描かれていると思う。「土を喰らう」とは、「旬を喰らう」ということ。撮影に1年半をかけたのも、旬をそのまま映すためだっただろう。次々と、自然で素朴で美味しそうなものが現れる。

監督の中江裕司に加え、料理の監修をした土井善晴の力は見逃せない。映画の撮影は、そもそも、監督と土井の「食べる」ことへの見解をすり合わせていくところから始まったという。この映画では料理が重要だが、土井は本当に美味しいものを使うことにこだわった。美味しさは映るというのが持論だ。主人公の作家・ツトムを演じた沢田研二がぬか床になじんでいることも見抜いたし、一方、料理に慣れている松たか子に、料理をしない都会の編集者・真知子らしくぎこちなくやるよう指導した。

「一人で食べる」「二人で食べる」「大勢で食べる」料理が出てくるが、圧巻は「大勢で食べる」葬式の料理。ツトムが義母の葬式をすることになり、客をゴマ豆腐でもてなすが、そのゴマを収穫し、実を採るところから描かれる。予想外に大勢が来たため、庭のナスを次々採って対応し、いつもは料理してもらう立場の真知子も手伝う。

こうして自然の恵みをそのまま生かして暮らすことは、美しくもあり、憧れでもある。この境地までは難しくとも、少しでも近づけないか、考えてしまう。


上映日/2024年2月18日(日)9:30〜
提供=豊橋信用金庫