ここが見所

怪物(2023年/是枝裕和監督)

高倉嘉男

実行委員会 企画理事
(学)高倉学園豊橋中央高等学校 校長
インド映画研究家

怪獣映画は日本のお家芸だ。圧倒的な破壊力を持った巨大な怪獣が見知った建物を次々と破壊し、地上で人間が為す術もなく右往左往する様子からは、恐怖というより爽快感を感じる。しかしながら、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドール賞などを受賞した日本最高峰の映画監督の一人、是枝裕和監督の最新作『怪物』には、そのような分かりやすいモンスターは登場しない。基本的にはリアル志向の人間ドラマだ。よって、我々観客は登場人物の中に、監督から題名を通して提示された「怪物」を探すことになる。

主な舞台になるのは地方の小学校であり、物語の中心になるのは小学五年生の少年、湊だ。母親の早織は、湊が学校で担任教師から暴行を受けているのではないかと心配し、学校に乗り込む。ところが、学校の対応はノラリクラリで、早織は苛つく。早織の視点から、学校は怪物の巣くう伏魔殿のようなものに見える。

しかしながら、その後すぐに、この映画はひとつの事件を複数の視点から描く『羅生門』タイプの構成を採用していることが明らかになる。早織視点の後は、担任教師や校長など、学校側の視点から同じ事件が描かれ、視点によって見え方が全く異なる仕掛けになっている。学校側からすれば、早織こそがモンスターペアレントなのであった。観客の「怪物」探しは迷路に入り、最終的に我々一人一人が「怪物」予備軍であることを思い知らされる。

結末は観客に判断を委ねるオープンなものになっており、それぞれ持って帰るものが異なるだろう。鑑賞後に仲間との映画談義が弾む名作だ。


上映日/2024年2月17日(土)9:30〜
提供=豊橋倉庫グループ