ここが見所

おばあちゃんの家(2002年/イ・ジョンヒャン監督)

藤本逸子

実行委員会 理事
豊橋創造大学 短期大学部 名誉教授

ソウルで暮らしているサンウ少年の母親は、シングルマザーです。彼女は職探しの間、故郷の山間の村で一人暮らしをしている自分の母親に、息子を預けます。サンウは、今まで一度も祖母に会ったこともなく、祖母が住む村に行ったこともありません。長い山道を走ってきたバスを降りたサンウは、ただただ戸惑うばかりです。

サンウのおばあちゃんは、耳が聞こえず、言葉を発することができません。読み書きもできません。孫がひどい仕打ちをしようが、おばあちゃんは、めげません。ひたすら孫を愛すおばあちゃんです。

時々、音楽が流れます。どのようなシーンでも、「大丈夫、そのうち分かるから」と感じさせる音楽です。フワっと温かく、のんびり包んでくれる音です。その都度、奏でられている楽器もメロディも異なっていますが、いずれも、危機感、切迫感、悲壮感などは、一切感じさせません。
はて? 「私は、なぜ、大丈夫、そのうち分かる、と感じるのか」「私は、いったい何を分かりたい、と思っているのか」そのような自問自答を優しく応援してくれる音です。

監督のイ・ジョンヒャンは、ロケ地の住民の中に、必要な演者が存在するという信念を持って配役を決めました。山間の村のシーンは、サンウ少年以外、主役のおばあちゃんも含めて、全員その村の住民が、演じています。本物ほど強いものはなし、演技では醸し出せない自然さが、この作品の大きな魅力の一つです。


上映日/2024年2月10日(土)9:30〜
提供=寿鉱業株式会社