ここが見所

カラオケ行こ!(2024年/山下敦弘監督)

望月直秀

実行委員会 理事
ディスクコレクター

変声期に悩む合唱部部長の中学生、聡美。何が何でも歌が上手くなりたいヤクザの狂児。現実にはありえない出遭いからの、優しく、たおやかで、とても温かな青春映画の快作。和山やまの人気コミックを原作に、野木亜紀子の巧な脚本を得て、「かみ合わないふたり」の可笑しみを演出した山下敦弘監督の妙!

他者に対してフラットな狂児。中学生である聡美に対しても敬意を払い、心の底では関わりたいが、それはいけないと思う。なぜなら、自分はヤクザだから。その特殊な気まずい距離感は、彼が体験することができなかった青春の再現ともいえる。聡美と出会ったことで、モノクロだった彼の世界に色が生まれる。演じた綾野剛はそれを愛おしむように演じた。

一方、オーディションで聡美役を獲得した斎藤潤は設定と同じ15歳で、撮影中に変声期を迎えた。その危うさは、本作の終盤に彼が初めて唄うシーンに効果的に表出しており、誠に感動的だ。リアルタイムに演者を越えて多感な時期の成長と変化を瑞々しくフィルムに定着させた斎藤潤。今後も要注目の若手だ。

そして、原作には無い、「映画を見る部」の設定は括目だろう。再生機能のみが活きた。ビデオデッキで一瞬も逃さないように見る。すなわち、巻き戻しが効かない今を生きる主人公たちの青春を象徴しているように私は感じた。他にも魅力的なキャラ満載の本作。

映画祭の楽日に上映される。リピーターの方も、もちろん初見の方も「映画祭に行こ!」そして、心を「紅」に染めて楽しみましょう。


上映日/2025年2月22日(土)13:10〜
協賛=豊橋信用金庫