ここが見所

東京物語(1953年/小津安二郎監督)

山本光伸

実行委員会 副会長
(株) 小倉屋 顧問

小津安二郎監督を知ったのは、大学1年生の時だったと思う。のちに東京大学総長になられた、フランス文学者で映画評論家の蓮實重彥先生の『映画表現論』という授業があった。面白そうだから取ってみたのだけれど、毎週、出される課題映画を観てレポートを提出するという、これがかなりハードな授業で、結局ついていけず単位を取れなかったのだが、後で知ったのは、この授業が多くの映画人を輩出していたということ。黒沢清、周防正行、森達也、塩田明彦、青山真治・・・そうそうたる面々である。落ちこぼれの自分も、この授業がきっかけで、小津作品をはじめ、今まで知らなかった映画の世界が開けたことはとても感謝している。

この映画、少し話の筋を紹介するとこうなる。尾道に住む老夫婦が東京で暮らす子供たちを訪れるのだが、自分たちの生活で精一杯の子供たちは両親を軽くあしらってしまう。そんな中で、戦争で亡くなった次男の嫁、原節子演じる紀子だけは、つましい生活の中でできるかぎり義理の両親をもてなす。血を分けた子供たちはつれなく、いわば他人である紀子と老夫婦は心を通わせるのだが・・・。

初めて観たとき、正直ピンとこなかった。その後自分自身が歳を重ねていく中で、何度も繰り返し観直すと、それぞれの立場で考えさせられる部分がある。子供たちの視点、紀子の視点、そして今はもはや老夫婦の視点で観る年齢になってしまった。家族の物語であるが、全体に流れる無常観、そして、罪深い戦争の影を感じながら、観るたびに胸が熱くなる。たぶん、死ぬまでにあと10回は観直すだろう。


上映日/2025年2月2日(日)13:00〜
協賛=株式会社オノコム